2025.02.10
子どもたちが落花生をまいて鬼やらい。地域でつくり上げる、奈良・大和神社の節分祭と子ども節分祭
奈良県北部に位置する天理市。古代ヤマト王権の古墳が多くあり、いにしえの日本を留めているところです。そんな天理市に大和神社(おおやまとじんじゃ)があります。第十代崇神天皇(紀元前97年~紀元30年)6年に創建されたと伝えられている、2,000年以上の歴史をもつ由緒ある神社です。祭神は国土(土地)の守護神とされた大和大国魂大神(やまとおおくにたまのおおかみ)で、「大和」の名を冠した大和神社はヤマト王権の成立から丁重に扱われたとされています。奈良時代には、遣唐使が出発に際して大和神社に参詣し、交通安全を祈願したことが、万葉集の好去好来の歌に詠まれています。
大和神社の拝殿。佇まいの美しい神社です。
ここ数年、YouTubeなどにも動画がアップされて、人気となっているのが大和神社の節分祭です。大和神社の節分祭は、2日間にわたって行われます。
2025年は、節分の日の2日に、16時から節分祭 祭典が執り行われ、18時にお正月に飾った注連縄や松飾りなどを燃やして年神様をお送りするどんと焼きが。19時から人気の鬼やらい神事と豆まきが行われました。そして、翌3日には、地元の幼稚園児が参加して子ども節分祭が行われました。
2日15時頃、大和神社を訪ねると、拝殿前の参道脇にテントが据え付けられ、白地のはっぴを着た方々が待機しておられました。この方々は、大和神社を氏神神社とする9つの地域の氏子代表だそうで、ずっと昔から節分祭のお手伝いをされているのだそうです。テント下のテーブルには、落花生と大豆、2種類の福豆が用意されていました。天理市では、北東部・福住町あたりで落花生栽培が行われているそうで、収穫時期になると道の駅などに生の落花生が並び、すぐに売り切れる人気ぶりなのだとか。
福豆は豆まきでもまかれますが、販売も行っており、白い袋のほうはハズレ無しの景品付きとなっています。16時に氏子代表の方々が拝殿に上がり、氏子の皆様の無病息災を願う節分祭 祭典が始まると、地域の方々も集まって参加され、祭典後には福豆を購入していました。
写真上:向かって右のテントでは、福豆の販売と景品の交換が行われます。写真下:福豆は落花生と大豆が用意され、節分祭 祭典に訪れた方々が購入していました。
18時、どんと焼きがあかあかと燃え上がる中、鬼やらい神事と豆まきを楽しみにしていた地域の方々が続々と集まってきました。大和神社の鬼やらい神事は昔から行われてきたもので、まず赤鬼と青鬼が登場して郷の人々を困らせた挙句、鬼同士がけんかを始めてしまいます。そこに猿田彦大神が登場し、鬼を退治します。日本の歴史に詳しい大和神社の事務職・中村友厳さんにうかがったところ、猿田彦大神は鬼退治に関わりがあるという説もあり、そのためこの神事では猿田彦大神が鬼を退治することになったのではないかと言っておられました。猿田彦大神は『日本書紀』において、長い鼻や赤い顔、光り輝く姿といった特徴が描かれており、その容姿から日本の民間伝承である天狗と結び付けられることもあるそうです。神事のあいだ、鬼同士の争いがはじまると、子どもたちから「赤鬼がんばれ」「青鬼がんばれ」の声が飛び、猿田彦大神の鬼退治では「がんばれ」の声援が上がり、見事に鬼が退治されると拍手が沸き起こりました。
鬼やらい神事のあとは、猿田彦大神に扮した方を含めた氏子代表の方々の豆まきが行われました。まかれる福豆すべての景品がついているとあって、あちこちから子どもたちの「ちょうだい」の声が聞かれ、大変な盛り上がりを見せました。
写真上左:猿田彦大神が青鬼を退治したシーン。続いて赤鬼も退治されました。写真上右:猿田彦大神に扮した氏子代表の方が勢いよく豆をまきます。写真下:福豆はハズレ無しの景品付きで、豆まきの後も景品交換を行う人たちでにぎわっていました。
翌3日には、拝殿前で子ども節分祭が行われ、今年は地元の幼稚園児40名が参加しました。子ども節分祭の豆まきでは、ピーナッツアレルギーのお子さんがいらっしゃったことから、今年は安全に配慮して、落花生の代わりに紙つぶての豆が使われることになりました。
子ども節分祭をつくり上げるのも氏子代表の方々で、開始1時間前にはすっかり準備が完了していました。あちこちの木などに災いを記した鬼の顔の絵が付けており、それに向けて子どもたちが豆まきを行うのです。神社に到着した子どもたちは、まず、保育士さんの指導でていねいにお参りをしていました。そのあと、「鬼がいるよ。やっつけよう」という保育士さんの掛け声がかかり、子どもたちは鬼の絵をみつけると「あ、ここにいた」と声を上げながら、鬼退治を行っていました。続いて鬼のお面や絵をつけた氏子代表の方々が登場して、子どもたちの興奮が最高潮に達した頃、昨日、鬼やらい神事に登場した赤鬼青鬼が登場。怖くて泣きだす子もいるほどの演技でした。その後、昨日同様に猿田彦大神が登場して無事に鬼退治をすると、年長の子どもたちや保護者と保育士の方々から拍手が起きていました。
写真上:氏子代表の方々が扮した鬼を取り囲んだ子どもたちからは歓声が。保護者の方々も参加され、楽しい雰囲気に満ちていました。写真下:猿田彦大神が鬼退治をするシーン。この後、立ち上がった鬼たちと猿田彦大神は手を取り合い、仲直りをアピールしていました。
宮司の西口 学さんにお話をうかがうと、「神社は、だれでも自由に来ることができ、地域のコミュニティと密接に結びついているものです。大和神社の節分祭は参加型で、氏子の皆様と一緒につくり上げています。ですから、子ども節分祭などを通じて、小さな時から神社に触れ合い、親しみをもってもらうというのは良いことと思います」とおっしゃっていました。大和神社の節分祭は、神社と地域の方々がつくり上げる、笑顔と親しみにあふれた祭事でした。氏子代表を何度も務めておられる米田龍雄さんが、「祭りごとは楽しくないとね」とおっしゃっていたのが印象的でした。