2024.11.11
11月11日はピーナッツの日。落花生栽培始まりの地、神奈川県中郡二宮町を訪ねて。
11月11日はピーナッツの日です。落花生は1つの莢(さや)に2粒ずつ入っていることから、月と日に1が2つずつ並んでいる11月11日がピーナッツの日に制定されました。秋も深まり、ちょうど収穫を終えた落花生の新豆が店頭に並ぶ時期でもあります。
ピーナッツの日にちなんで、今回は、日本の落花生栽培・流通に長い歴史のある地域、神奈川県中郡二宮町の取材記事をお届けします。日本では、明治7年に政府が各地に種子を配布して推奨したことが落花生栽培の始まりとされていますが、それより早く、明治4年に中国人から種子を手に入れた、神奈川県の2人の人物が栽培に成功しています(※詳しくはこちら)。そのうちの1人、二見庄兵衛氏が現在の二宮町在住で、近隣に栽培を広めたといわれています。
二宮町の渡邉商店は、落花生の商業生産が始まったころ、明治時代の初期に落花生の卸問屋として創業しました。現在の代表、渡邉 廣さんは4代目にあたり、「私のように昔の話を知っている人はほかにいないと、みんなに言われる」とおっしゃっています。渡邉商店の小売り店舗の隣には、関東大震災のあとに建てられた築100年になる古い住居があり、表玄関を開けると土間があり、腰の高さぐらいに畳敷きの帳場があるという、昔の問屋の造りがそのまま残っています。飴色に輝く柱にかけられているのは、神奈川県で落花生を商っていた組合の古い看板。落花生が国外にも輸出されていたときのものだそうです。
渡邉さんに、二宮の落花生の歴史をうかがいました。
写真上:渡邉商店の外観。向かって左に帳場があり、右に工場があります。写真下:帳場に立つ渡邉 廣さん。下は畳敷きで渡邉さんの前の机で帳簿の管理をしていました。右が歴史を物語る組合の看板。
「昔、この辺りは養蚕をやっていたんだけれど、落花生の栽培が盛んになっていって秦野(二宮の北上に位置する)周辺で作られるようになり、大正時代にはアメリカへ輸出されるようになった。一番盛んだったのは戦後で、当時、鉄道輸送が主流だったから、二宮駅が落花生の集散地になったんだよね。二宮にはかつては多くの問屋があり、今の千葉県のように全国へ出荷していたんだよ」
今では、落花生の主産地は千葉県となり、二宮で落花生の加工・販売を行っているのは数軒となり、渡邉商店でも、現在は卸よりも自社製品の小売りに力を入れています。
「昔は畑も多く、農家1軒で200俵ぐらい出荷したというところもあったんだよ。神奈川県の落花生の生産量はずいぶん少なくなったけれど、もちろん現在でも作られていて、主産地は湘南や秦野なんだけれど、この近隣でも作っている農家が少しある。神奈川の落花生はおいしいよ。土が違う。柔らかいので落花生栽培に向いているからね」
渡邉商店はお店の隣に工場があり、見学させていただきました。なんと、この工場、明治時代のものだそうです。様々な設備が木製で、これはもう、日本の落花生生産の歴史的遺産では?と思うほどの設備ですが、驚くことに現在も現役。渡邉さん自らが整備しているそうで、すごいとしか言いようがありません。
様々な設備が木製の、明治時代から続く工場。左側奥に見えるのは選別機を稼働させる古いモーター。モーターから伸びているのは、なんと布ベルトです。
工場には、神奈川県産の新豆が積まれており、殻付きの状態と、殻をむいたものを見せていただきました。
「二宮の落花生の特長は、昔から“手むき”。今、一般的には機械で殻(から)や薄皮をむくんだけれど、二宮では殻を手作業でむいて、バターピーナッツなどの加工品にする落花生の薄皮も手でむいている。殻を手むきした粒には目に見えないほどの産毛が残っているんだけれど、機械でむくとこの産毛がそがれてしまって、そこから落花生の油分が出て酸化しやすくなる。手間はかかるけれど、手むきは舌触りも味も違うんだよね」
渡邉商店では、むいた殻でかまどの火を焚き、バターピーナッツをつくっています。それも昔ながらのやり方だそうです。バターピーナッツ製造施設は工場の裏手にありました。かまどは新しく造られたもので、渡邉さんの設計だそうです。「何もかも、味を追求した結果」だそうで、「柔らかさを残しつつ、湿気ないように仕上げるのが独自の技」だと、渡邉さんはおっしゃっていました。
写真上左:これが明治時代から使っている選別機。木製で目の大きさが違う金網に通すことで選別します。写真上中:神奈川県産の手むきの粒。とてもきれいです。手むきならではの産毛は触ってわかるかわからないかの微細なものですが、それが味わいを左右します。写真上右:落花生の殻を燃やしてバターピーナッツをつくる炉。この上に大きな鍋が設置されています。写真下:渡邊商店の店頭。手むき落花生の製品が並びます。
昔ながらの設備と製法を守って味を追求する渡邉商店の落花生製品のおいしさには定評があり、根強いファンも少なくありません。特にバターピーナッツと、落花生を白ざらめで包んだ「落花糖」は、でき上がりを問い合わせてわざわざ買いに来るお客さんもいるそう。
日本の落花生栽培・流通の歴史を今に伝える、二宮と渡邉商店。機会があったら、ぜひ、伝統に培われた落花生を味わってみてください。